東京地方裁判所 平成7年(ワ)3363号 判決 1996年10月22日
反訴原告
大熊道雄
反訴被告
ミツワ交通株式会社
ほか三名
主文
一 反訴被告らは反訴原告に対し各自二六万六〇四〇円及びこれに対する平成六年六月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その九を反訴原告の負担とし、その余は反訴被告らの負担とする。
四 この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
反訴被告らは反訴原告に対し各自四五六万五八八〇円及びこれに対する平成六年六月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、反訴原告が反訴被告らに対し交通事故による損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 当事者
(一) 反訴被告京王自動車株式会社は、タクシー会社であり、反訴被告早川を運転手として使用していた。
(二) 反訴被告ミツワ交通株式会社は、タクシー会社であり、反訴被告小田切を運転手として使用していた。
(三) 反訴原告は反訴被告早川運転のタクシーの乗客である。
2 本件事故の発生
(一) 日時 平成五年九月四日午前一時一〇分ころ
(二) 場所 東京都渋谷区代々木三―四〇路上
(三) 態様 反訴被告小田切が普通乗用自動車(足立五五く九三四六・以下「小田切車」という。)を運転して甲州街道方面から小田急線参宮橋駅方面に進行中、小田切車を甲州街道方面にUターンさせようとした際、甲州街道方面から小田急線参宮橋駅方面に走行していた反訴被告早川運転の普通乗用自動車(練馬五五け三〇七一・以下「早川車」という。)の前部に小田切車の右側後部を衝突させ、早川車に乗車していた反訴原告に頸椎捻挫の傷害を負わせた。
3 責任
(一) 反訴被告京王自動車株式会社
商法五九〇条一項、民法四一五条、自賠法三条、民法七一五条の損害賠償責任がある。
(二) 反訴被告ミツワ交通株式会社
自賠法三条、民法七一五条の損害賠償責任がある。
(三) 反訴被告早川、同小田切
民法七〇九条の損害賠償責任がある。
4 通院治療
医療法人社団芳寿会玉井病院(以下「玉井病院」という。)に平成五年九月四日、同月二九日、同年一〇月九日、同年一一月二二日の四日間通院した。
5 損害の填補
反訴被告ミツワ交通株式会社は治療費として八万五二三六円を支払つている。
二 争点―損害(損害計算書のとおり)
1 治療費 五万一〇四〇円
光安整形外科病院の治療費四万六〇四〇円及びその他の五〇〇〇円
2 慰謝料 一二六万円
反訴原告は、平成五年九月四日から同六年六月二一日までの間に一一日間通院した。また、反訴被告らは反訴原告が本件事故による傷害で苦しんでいるのに、平成五年一〇月までの治療費しか支払わないとか、休業損害はないとして示談交渉を誠実にせず、債務不存在確認訴訟を提起するなどの暴挙を行つている。
3 逸失利益 二五七万一八三〇円
反訴原告は本件事故当時訴外株式会社東亜(訴外会社)の管轄長の職にあり、支店、営業所等の営業社員、業務社員の教育、助言、指導などを行つており、三六万七三六〇円の固定給のほか、報奨金として反訴原告が管轄する支店、営業所の前月二〇日から当月二一日締めの収益の七パーセントのコミツシヨンのうち二分の一の額、成功報酬として反訴原告が管轄する支店、営業所の前月二一日から当月二〇日間での工事完工額五〇〇〇万円までに対し四〇万円、五〇〇〇万円以上一億円未満までに対し五〇万円、一億円以上一億五〇〇〇万円未満までに対し七〇万円、一億五〇〇〇万円以上二億円未満までに対し一〇〇万円、二億円以上に対し一三〇万円が支払われることになつていた。なお、平成五年七月までの成功報酬は工事完工額五〇〇〇万円までに対し四〇万円、五〇〇〇万円以上に対し五〇万円となつていた。
反訴原告は本件事故による傷害のため平成五年九月四日から同六年二月末日ころまで営業社員、業務社員の教育、助言、指導などを行えなかつた。
そのため、反訴原告は報奨金、成功報酬の合計二五七万一八三〇円を得られなかつた。すなわち、平成四年八月二一日から同五年八月二〇日までの報奨金、成功報酬の合計は二七一三万三三一六円であり、これを一二で除すると一ケ月当たり二六万一一一〇円となる。これに対し、反訴原告は平成五年九月二一日から平成六年一月二〇日までの報奨金、成功報酬の合計は九九三万三七二二円となるが、損害算定に当たつては比較対象となる平成五年八月以前の成功報酬に修正する必要があるから成功報酬の上限を五〇万円として平成五年九月二一日から平成六年一月二〇日までの報奨金、成功報酬を算出すると、八七三万三七二二円となりこれを五で除すると一ケ月当たり一七四万六七四四円しか得ておらず、一ケ月につき五一万四三六六円の減収となるから、五ケ月間では二五七万一八三〇円の逸失利益となる。
4 弁護士費用 六三万三〇一〇円
第三当裁判所の判断
一 損害
1 治療費
証拠(甲四ないし六の各1、2、乙五、六の各1、2、反訴原告)によると、反訴原告は玉井病院に平成五年九月四日から同年一一月二二日までの間に四日間通院したこと、その間の治療費の合計は八万五二三六円であること、光安整形外科病院に同年一二月四日から同月二八日まで六日間通院したこと、その間の治療費は四万六〇四〇円であること、反訴原告にはそのころ吐き気、しびれ、首の痛みがあつたこと、光安整形外科病院では鎮痛、抗炎症剤であるロキソニン(内服剤)と、非ステロイド抗炎症剤であるインサイドパツプ(外用剤)の投与を受けていることが認められる。
右事実によると、玉井病院、光安整形外科病院での治療費合計一三万一二七六円は本件事故と因果関係のある損害というべきである。なお、反訴原告が支払つたと主張する五〇〇〇円についてはこれを認めるに足りる証拠はない。
2 慰謝料
反訴原告の傷害の内容、治療期間、その他本件に現れた事情を総合考慮すると、慰謝料としては一七万円が相当である。
3 逸失利益
(一) 証拠(甲七、八、乙八ないし一〇、一三ないし二〇、証人小池、反訴原告)によると次の事実が認められる。
反訴原告は、訴外会社に勤務し、関東地区の事業所の管轄長の地位にあつたこと、訴外会社は住宅設備機材の販売、住宅用アルミ建材の製造及び販売、住宅の修理、増改築その他の改善に関する設計等を目的とすること、訴外会社の顧客との契約は営業社員が各住宅を訪問して受けてくること、管轄長の主な職務内容は、新入社員に対する営業理論、営業トークの教育、現場での指示、契約の取り方や見積もりの仕方の教育、契約獲得の補助、支店長に対する管理教育などであること、反訴原告の給料は基本給一四万九三〇〇円、各種手当てのほかに報奨金として反訴原告の管轄している支店、営業所の収益(売上金から下請けなどの代金を控除した粗利益)の七パーセントの二分の一が支給され、成功報酬として工事完工額五〇〇〇万円までに対し四〇万円、五〇〇〇万円以上一億円未満までに対し五〇万円、一億円以上一億五〇〇〇万円未満までに対し七〇万円、一億五〇〇〇万円以上二億円未満までに対し一〇〇万円、二億円以上に対し一三〇万円が支払われること、反訴原告の報奨金、成功報酬は、本件事故以前一年間である平成四年九月から同五年八月までは別紙報奨金、成功報酬一覧表(一)のとおりであり、本件事故後である平成五年九月から同六年一月までは別紙報奨金・成功報酬一覧表(二)のとおりであること、反訴原告の平成四年の給与収入は二八八四万七二九二円であり、平成五年の給与収入は三四四一万一一七二円であること、本件事故後反訴原告は欠勤はしていないことの各事実が認められる。
(二) なお、証人小池、反訴原告の各供述中には、反訴原告が本件事故後出社しても頭痛や吐き気がしてソフアーに横になつている状態であつたとの部分があるが、他方反訴原告は本件事故後福岡に出張したこと、埼玉や横浜などの各営業所、支店を動いていたことをその本人尋問で自認しており、また、前記認定の反訴原告の通院状況を勘案すると反訴原告の右供述部分を直ちに採用することはできない。
もつとも、反訴原告は、事務所には反訴原告一人しかいないので事務所を開けることができず、通院できなかつたと供述するが、福岡への出張や営業所、支店へ行つていた事実とは矛盾し、むしろ治療日数が前記認定の程度であることは、反訴原告の症状がその主張する程度ほど重いものではなかつたことを窺わせるというべきである。
(三) 右の事実に基づき判断するに、反訴原告は本件事故後平成六年二月末まで本件事故によりほとんど仕事ができなかつたと主張し、これに沿う供述部分もあるが、前記のとおり採用することはできない。
仮に反訴原告の症状が仕事に差し支える程度の状態であつたとしても、平成四年九月から同五年八月の各月の報奨金をみても、五〇〇万円を超える月から七万円程度の月までその変動があり、報奨金に反映している収益の有無は、その時々の経済情勢や、個々の営業社員の個別的な働きに左右されることが考えられ、反訴原告のいう営業社員に対する教育などに支障があることによる収益への影響が具体的にどの程度なのかは、本件全証拠によつてもこれを確定できないところである。したがつて、反訴原告が主張するように計算上は本件事故前一年間と比較して、本件事故後五ケ月間の報奨金、成功報酬が減少しているからといつて、その減少が本件事故と因果関係があるとまでは認めることができない。
よつて、反訴原告の逸失利益はこれを認めることができない。
3 小計
以上の合計は三〇万一二七六円となるが、治療費として支払われた八万五二三六円を控除すると二一万六〇四〇円となる。
4 弁護士費用
反訴原告が本件訴訟の提起、遂行を反訴原告代理人に委任したことは当裁判所に顕著であるところ、本件事案の内容、審理経緯及び認容額等の諸事情に鑑みると、反訴原告の本件訴訟遂行に要した弁護士費用は、反訴原告に五万円を認めるのが相当である。
5 合計
以上の合計は二六万六〇四〇円となる。
二 まとめ
反訴原告の請求は、反訴被告らに対し二六万六〇四〇円及びこれに対する本件事故後である平成六年六月二一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却する。
(裁判官 竹内純一)
損益計算書
報奨金・成功報酬一覧表(一)
報奨金・成功報酬一覧表(二)